犬は、血統書付というような澄ました顔立ちのがいなくて、みんな野良犬みたいに見えました。好きにうろついてるからもあるでしょう。これだけ放って置かれるなら、噛まれたりする事故はあんまりなかったはずです。
「猫はつながれてるから野良猫が増えることはないわね」
「野良犬がこんなにいるんだから猫が少し増えたって」
「なんだか妙に美人の猫しかいない」
「猫は子猫しかいないみたいだ。大きくならない品種なのかな」
「ああ、それで。チワワ猫なのね」
犬が多くて、つながれていません。そして猫は、首輪に紐をつけて散歩するもののようでした。犬と違って、しつけなんてできませんから、とんでもなく長い紐の先で転げまわっています。
「猫って勝手に散歩して戻ってくるものじゃないの。人を噛んでもひどい怪我にならないし」綿帽子は不思議に思いました。
「普段家の中で飼ってて、道を知らないのかな」藤紫(ふじむらさき)も、首を傾げています。
「教室単位なら、全ての個人名の把握ができる規模だから、使命を帯びることも」
「漂流したり」
「人種保存が使命かしら」
「国中を楽しませるためにクラスメイトで殺し合いをしたり」
「ローマ時代の奴隷剣闘士とライオンね」
「乱入や仲裁、弱い者加勢はご法度」
「使命を帯びた状態で、異世界に手段を探しに行くのだったかもしれない。異世界から用もなく来た人の場合は、その世界では予言されている存在なの。ふいに来たんじゃなくて、世紀をまたいで鳴り物入りなのよ」
「インカとか」
「それに物語では、個人や、全ての個人をお互いが識別できる少人数のパーティに任せることはあっても、一つの邑(むら)とか、工場(こうば)に、世界を救わせることはないわ」
「万人単位の学校とか、コンツェルンにもね」
「マルチリンガルなら、異世界の人に会っても言葉が通じるから、話がうまく転がってくのね」とヴィブラートのかかった声でいいます。
「マルチリンガルって、どんな言葉でもわかるの。ボディランゲージで意志疎通はできてるじゃない」と手袋屋。
「呪いの指輪を捨てに行くとか、滅びつつある世界を救うとかのミッション発令は、ボディランゲージでは無理よ」
「そんな重大な案件を、異世界からふっと降りてきた個人に任せるものなのかな」
その人は自分の体を突き刺すように指差し、そしてもう一方の手で綿帽子の体を示しました。見ると綿帽子の体も、幽霊のように透き通っていました。
「どうして?」と綿帽子がびっくりする間もなく、その人は目を手で覆って、もう片方の手で下を指差しました。ガラス質のずっと遠くでマグマが燃え輝いています。その明るさのせいで、透けてしまうようでした。
幽霊のように向うの透けて見える人は何か音を出しました。綿帽子の聞いたこともない音です。
「え?」と綿帽子は思いました。文字にも音符にも置き換えられないし、かといって色や形でもありません。と思って気づきましたが、耳で聞こえているのかもよくわからない感じでした。
「なんだか背中からも響くみたい。そう響く、体に振動を受けているのよ」
トランポリンの布は、こんな感じがしているかもしれません。