「それにあんた帽子はどうしたの」
「すぐ戻って来る証拠に置いて来た」
「じゃないと解放してくれないんだ。ニンゲンだもの」
「いや、そんななら連れてかないって」というと白巻貝は姉の帽子を持って来てかぶせました。白い円錐形の貝殻型でとんがりのてっぺんから下に細いすじが通っています。
「いつも食べないとか言ってないでしょうね」
「うーん、言った」
「恥ずかしいでしょ」
「恥ずかしいんだ」
痩せの大喰らいならたしかに豪胆な感じです。でも百年食べなくても、死なない餓えるだけなら、それもまた古強者ではないでしょうか。
「女の子か」と姉。女の人なので女の子が好きなのでした。
「蕾の刺繍のワンピースを着ていたよ。マカロンがカラフルなのと生成り色のとで、大きいくるみボタンみたいでさ、その子が食べると似合うんだ」
たぶん、この感想をさっき言ったら喜んだのに。
「食べなくたって死なない!」と姉。
「それはそうだけどさ。願い事…じゃないな、おもてなしがおいしい食べ比べだから、味にウルサ…味覚が鋭いのが役立つからさ、来てよ。連れて来るって言っちゃったし。可愛い女の子がいるから」と白巻貝。
「百年!? お腹もすかないの?」綿帽子はたとえお腹が空かなくてもご飯は食べたいわと思いました。
「いや、餓える」
「それって苦しすぎませんか」
「すぐ連れて来るから。ここおれの席」
というと白巻貝は帽子を取ってそこに置くとポンと消えました。
「ちょっとあのさ」と白巻貝は何か言いたそうです。
「なんですか」と新橋色(しんばしいろ)。
「もう一人連れて来ていい?」
「もちろんいいわ。お友達?」と綿帽子。
「いや、姉。ここ百年くらいモノも食べなくなってるから」と白巻貝。
ピーナッツマコロンは素朴で優しい味なのです。ざくざく齧るとほろほろ砕けて溶けていきます。
「欧州マカロンは嘉味(かみ)、奥州マコロンは滋味」と白巻貝は言いました。短い感想です。