「ストーリーはもう出尽くしているのだから、どれかを選んで真似して使うものですよ。
一番多いのは、自分が一番ストーリーで、全ての登場人物が主人公を最重要とし、恋に落ちるか、好敵手(ライバル)とみなして攻撃するもの」と貝殻姉。
「テロメアがほどけたから恐竜とアンモナイトは滅んだんでしょ」と綿帽子。小豆と抹茶のシフォンケーキをフォークで差しています。
テロメアは遺伝子の端っこで、キャンディの包み紙ならねじってあるところです。綿帽子はミルキーのパラフィン紙の包み紙の触り心地が好きでした。包みを広げたら食べちゃわないとね。
「何? テロメアがほどけて滅びた? また変な説を」手袋屋はこぼれるところだったチャイのカップをそおっとテーブルに置きました。
和風甘味に合ってるのか、チャイを煮たい気分だったのです。
肉荳蔲、胡椒、肉桂、生姜、丁子、小荳蒄と細かいほこりのようなダストティー、ミルク。良い紅茶の葉では、美味しいチャイは作れません。
普通の紅茶の入れ方に慣れていると、水から煮て、数分煮つめるうレシピには抵抗があっても、分量も時間も適当でいいので簡単です。試しにやってみるとスパイスの効果がじんわりゆっくり悠久に広がって楽しいです。
「このフォーク味がする」と綿帽子。
「やっぱり使えないかしら、可愛い細工だから蚤の市で掘り出したのよ。ステンレス以前の何ものかなのね」と姉さま。
「合金重金属が溶け出してる味よ」
「返事がかえってくるだけで驚きよね」と綿帽子は思います。
「返事にもよるでしょう」と貝殻姉。
「だって泉が喋るのよ」
「そうかそれを珍しがるなら。『自分が喋る』ことも珍しければしみじみうれしいかも。赤ちゃんがその状態かな」
「でも」と綿帽子は思いました。「まだ聞く気もあるし答える気もあるのね」
「Q寿命に、Aおいしいヨーグルト菌の品種名を答えたりしない程度には」とムーングレイ。
「あと、聞いた人が使った言語を使う程度にね」と白巻貝。
「どうだった?」と貝殻姉。
「いつか死ぬってわかったわ。もちろん知ってたから」と綿帽子。
「あの泉は大昔は面白かったのよ。来た人を楽しませようって気持ちをなくしてしまったのね。失ったのは能力じゃなくておもてなしの心」
「才能がないって『自分の魅力を伝える技(スキル)がない』って意味だろ」と白巻貝。
ぽちゃん。
「死なない。永遠の命」ごぼごぼ炭酸が泡立ちながら答えます。
「これは本当に当らないんだね」と瓶覗(かめのぞき)。
「そしてこれでは少しも参考にならないね」
と言ったが早いか「決して当らないので少し参考になる神託の炭酸水泉」です。小石を投げ込んで波紋が広がりきる前に質問するように立て札に書いてあります。
「いつ死ぬか聞いてみよう」と綿帽子。