「どうしたら帰れるの」と綿帽子。
「さあ」とピジョンブルー。
「そんな、また靴を裏返しに履けばいいんでしょう? でもこのブーツは確かに裏返せないわ」
「大層な紆余曲折を経てやっと帰り着くのは誰かに任せて、ロケットが開発されるのを待とう」
「この原生林で、そんなものが開発されるのはいつになるの。自力で作るとしたら、この木を使うことになるわね」
その辺の枯草と枯れ枝をかき集めてあっという間に火を熾しています。
「人体自然発火ができるの?」
「火打石とマグネシウムを持っているから。不自然発火だね」と秘色色(ひそくいろ)は澄ましていいます。
ぱちぱちいう火を眺めていると、水着は乾く替わりにテンガロンハットとウェスタンブーツ、ホットパンツにガーターと編みタイツ、刺繍のチュニックブラウスに替わっていました。
「水とドレスとパニエが体にまとわりついて重たい。川底から引っぱられるみたい」でも次に気づくと頭が水面に出ていました。
「気を失うって憧れだったけど、こんなとこでなって欲しくないわ。それに気を失う直前までしか覚えてられないんだから、気を失ってもさっぱり面白くないのね」
なんだかさっきより体が軽いし、綿帽子はプールが大好きですから、岸まで泳ぐのはわけないです。渕は流れが遅いのです。
ごろごろした石に黒々と水をこぼしながらあがって見ると、綿帽子はピンク色ストライプのコルセットと白いレースのペチコートの水着を着ていました。薄くて水をそんなに含みません。「これって、いつの時代の流行の型なの。さっきのドレスより、ずっと露出が少ないわ」
もやい綱をほどいてそのボートに乗ると、ボートは漕ぎ出す前に水面を滑り始めました。
「ちょっとこれ、何の動力なの」
「水の流れが思ったより早かったようです」とブルーラベンダーは青くなっています。
もうジェットコースターのような速度になっていました。
「これでは! パラソルも! 開けないわ!」風がびゅんびゅんうなって、叫ばないと自分の声も聞こえないのです。
「パラソルはあきらめて! それより滝に! 落ちそうです!」
そう言ったのが早かったかボートから投げ出されて水に沈むのが早かったか、わからないくらいでした。
「もう歩かない。ここにする。ここが南極」といったとたん川のほとりに出ました。かわせみがずっと向うで魚を捕っています。「あの木は何」
「雷に打たれて裂けたけど支障なし、かな」
さっきのとは違う、シフォンケーキの味と白パンの食感の果物で綿帽子はご満悦でした。皮はワインレッドで苺味で、中がパウダーベージュ色なのです。
「すぐ、お茶が入るよ」行楽用サモワールの蛇口をひねりながら露草色がいいます。
鬱蒼とした森なので、綿帽子が歩くとふわふわのオーガンジーがあちこち引っかかって裂けてしまうのです。綿帽子は枝を避けきることができませんでした。腕はショールで覆っても、膝と靴下の間が引っかき傷だらけです。ホライズンブルーは綿帽子が通りやすいように枝や潅木や草を除けてくれるのですが。
服のカギ裂きになったところは、すぐに雪の結晶のように素敵に綺麗で様様な模様のチュールレースになるので、前より素敵になるのでした。一番上のオーガンジーだけ木や草の色を映して緑色に染まってきて、メイクィーン(五月の女王)のようです。
「小川の水がラムネ味だったりするかしら」綿帽子は食べたり飲んだりしに木星に来たんです。「でもそしたら、お茶が飲みたい時には味のしないお水を探すのね。お魚だって虫歯だらけになるわ」
「生水はダメだよ。サイダー味でもお腹を壊したら大変」