夏作りはきょうだい三人で初夏盛夏晩夏を担当していました。盛夏が一番エネルギーがいる上に嫌われるのです。押し付け合いではなくて、盛夏だけ三人とも入り、初夏と晩夏はひとりかふたりで作りました。
今年はひとり体を壊して転地していたので、盛夏も一人でした。
「温暖化を急ぎ過ぎたな」
たくさんのプチ薔薇たちはみんなくったり首を垂れて葉に半分埋もれています。「雨が降るまでお眠」と綿帽子は思いました。
「雨は降らないよ、水を蒔くのは夕方」と杜若色(かきつばたいろ)は言います。
夏の終わりのちょうど良く穏やかな暑さの昼下がりです。「惜しんでもらえるように、快適を演出してるのね。アイスが食べたくて、動いても汗ばまない、愉快指数100」
「可笑しいわ。異星ってもっと怖いもののはずよ。骸骨も見なかった。あの小川の翡翠(カワセミ)がひとこと喋ったのは面白かったけど。『魚だってお喋りする』」
「これが木星で摘んで来た花」といいながらホリゾンブルーは菫を束にして猫じゃらしの茎で結んで綿帽子の膝に置きました。
「そこをゲリラ戦ごっこの秘密基地にしたい」とお客は続けます。「敦盛に終わるのがわかったとしても、なんかうろちょろしたいものなんですから。獅子舞みたいに」
「ここにいるってことは、ブローチなんていらないんじゃない? あなたの木星に、すでに来ているのよ」といってから気づきましたが、ここは綿帽子の庭なのでした。白樺と大きな向日葵が、綿帽子を見おろしています。蝉がシャラシャラジャラジャラ鳴いています。
「ものにするとかしないとか厭なのでブローチだけください」とそのお客がいいます。「年齢的につりあわなくておかしいし、そちらのパンプキンの髪の男の子と競うのはきっと骨でしょうから」
「あのヒヤシンス色の髪が、オレンジに見えるの?」
「はい。濃いオレンジ色です」
「水色と紫色の中間の色よ。いつだってそうだわ」
落っこちて、カンガルーのポットに、入りました。
「こんなに鱗が詰まっていたら皮膚呼吸が難しい」そういうと、象嵌の六重塔のテントの中から顔を出しました。「夜は凍えるね。温かいお茶のうれしいこと」
薄緑の熊が出てきました。
「『お嬢さん、お逃げなさい』っていうかしら。白い貝殻のではないけど、白いパールのイヤリングをしているから。でもちょうどよく落ちるかしら」と綿帽子はわくわくしながら見つめました。
「この熊に乗るといいです。たぶん、乗せてくれるでしょう」と淡藤色(あわふじいろ)がいいます。
すると熊はにっこりしました。すくなくとも綿帽子にはそう見えました。
「いい熊みたいだけど、どこに行っちゃうかわからないじゃない」
「たぶん彼が地球行き宇宙号です。陸(おか)住まいだから、大西洋の真ん中に降りたりはしないでしょう」