木星は結局招待状の期日までにお客と目星をつけたゼフュロス(西風)に招待状を渡すことができなかった。お茶会の日にサモワールはオートで3バレルのお茶を沸かす設定にされていたので、どんどん作りつづけた。
どんどん、どんどん作りつづけて館から溢れて河になった。
「返事がかえってくるだけで驚きよね」と綿帽子は思います。
「返事にもよるでしょう」と貝殻姉。
「だって泉が喋るのよ」
「そうかそれを珍しがるなら。『自分が喋る』ことも珍しければしみじみうれしいかも。赤ちゃんがその状態かな」
「でも」と綿帽子は思いました。「まだ聞く気もあるし答える気もあるのね」
「Q寿命に、Aおいしいヨーグルト菌の品種名を答えたりしない程度には」とムーングレイ。
「あと、聞いた人が使った言語を使う程度にね」と白巻貝。
「どうだった?」と貝殻姉。
「いつか死ぬってわかったわ。もちろん知ってたから」と綿帽子。
「あの泉は大昔は面白かったのよ。来た人を楽しませようって気持ちをなくしてしまったのね。失ったのは能力じゃなくておもてなしの心」
「才能がないって『自分の魅力を伝える技(スキル)がない』って意味だろ」と白巻貝。
ぽちゃん。
「死なない。永遠の命」ごぼごぼ炭酸が泡立ちながら答えます。
「これは本当に当らないんだね」と瓶覗(かめのぞき)。
「そしてこれでは少しも参考にならないね」
と言ったが早いか「決して当らないので少し参考になる神託の炭酸水泉」です。小石を投げ込んで波紋が広がりきる前に質問するように立て札に書いてあります。
「いつ死ぬか聞いてみよう」と綿帽子。
「何もないって駅に苦情が来そうだもの」
「ネズミ返しまでピンクだ」
「塗られてるんじゃなくって、木がピンクよ。よく見ると綺麗。珊瑚みたいに。これ粉砕しないで使えないのかしら。アクセサリーの材料とか」
「そういえばどうしてわざわざ壊すんだろう」
「珊瑚色廃墟って名前をつけかえたら名所になるのに」